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ニューヨークでミュージシャンとして活躍する一面、自閉症の子供と向き合う現実との戦い
by gakuandben
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推薦文・プロフィール
タケカワユキヒデさんから推薦を頂きました!
 「自閉症の子供を持つ親が勇気づけられるだけでなく、自閉症のことをよく知らない人たちにとっても、とても意味のあるエッセイだと思います。
 また、生のニューヨーク事情も知ることもできる。なんとも、幾重にもお得な素晴らしいエッセイです。

プロフィール
高梨 ガク
64年東京生まれ。ベーシスト。18歳でプロ・デビュー後、90年に渡米。ソウル、ジャズ系の音楽を中心に幅広い音楽活動を続ける。ポリスターより自己のバンド
『d-vash』(ディバッシュ)”Music Is”が発売中。
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砂かぶりの感激
ベンには悪いけど、もう一つの夏休みの約束だったミュージカル「レント」には下の子とだけ行くことにした。前回のミュージカルでちょっと心配な部分があったことと、ロト・チケットに挑戦してみようと思ったのが最大の理由。

ロト・チケットは「レント」の作者、ジョナサン・ラーソンがこのミュージカルを始める時からのアイディアで、安い値段の席を設けて誰にでも平等に楽しんでもらう為に、開演2時間前にチケットを20ドルで売り出すというもの。

DVDになった映画バージョンのインタビュー見て、この事を知った時は、きっと最後尾の列でお客の入らなかった席を売り出す程度のものだろうと考えていたのだが、ホーム・ページで調べてみると、毎公演必ずあって、さらに何とそれは最前2列の34席ということがわかった。

最後尾専門のベンにとって、これはかなり都合の悪い事で、現実的に間違い無く不可能な席。そして抽選は一人に対して2枚のチケットなので、3人以上行くためには2人一緒に当たらなければならないというのも不可能に近い。

抽選に申し込む為に5時半に劇場に行き、カードに名前を書き込む。ボックス・オフィスの人に聞いた時には、50パーセントの確率と言われたが、それはかなり楽観的な見方であることが申し込む人の多さでわかる。「ダメなら、見ないでも良いということだな」と思いつつ待っていると、6時になり不公平の無いようみんなの見ている前で、劇場スタッフが箱からカードを引き出す。

60人程の登録者から10人以上の当選者が出て、あきらめかけていた頃に「ガク・タカナシ」と名前を呼ばれる。当選者に対してみんなが拍手をしてくれるのが何とも嬉しい。2枚分のチケットを買い、すぐに家に戻った。

ベンには仕事に行くと行ってウソをついた。弟はそれに付いて行くということで、ごまかしたけど、それでもやはり「Can I go with you ?」ということになってしまう。どこか楽しい所に行く気配には本当に敏感なのだ。母親が夕食の準備を始めてくれたので、それに気をとられているうちに家を飛び出した。

こういう時にはいつも罪悪感と自分への問いかけが頭を駆け巡る。「平等にしてあげなければ可哀想なんじゃないか?」だけど、こんな時は自分の経験から、パフォーマーとそれに対して真剣に対価を払っている聴衆の方々に対するリスペクトという観点から考えることにしている。

やはり、静かにすべき状況で静かにする事が出来ない人は、特別な状況が用意されている以外は行くべきでは無いと思うし、それは健常者でも障害者でも同じ尺度で考えての話。例えば赤ちゃんや子供でも静かに出来ない可能性がある場合は連れてゆかないのと同じ事だ。しかし、逆に出来る状況にある場合は積極的にするべきだと思う。

先日読み終えたマイルス・デイビスの自伝の中に、こころを打たれる一節があった。音楽的、精神的に燃焼し尽くして5年間一度もトランペットを触らなかったマイルスが、やっと立ち直った復帰コンサートでの、最前列にいた車椅子の観客について触れている。マイルスは言葉を発することも、手足を動かすことも自由に出来ないその観客が手を差し伸べて、トランペットに触った時に、すべての事を忘れて泣き出したくなったそうだ。「彼の目には、音楽を深く理解している輝きがあった」とも綴っていて、波乱の人生を送って来たマイルスの大きな転機になった出来事だったに違いない。

こんな話のように、パフォーマーにエネルギーを与えられるようなチャンスがあれば、お互いにとってすばらしい経験になるだろう。

唾が飛んでくるほどの近い距離から見た「レント」はアンサンブルの場面で出演者全員の動きや表情を、首を動かして見渡さないといけないという難点はあったものの、逆に遠くからではわからないマイクを通さない声や、ステージでの音、そして何よりも驚かされたのは涙のシーンで、役者さんたちが本当に涙を流しながら歌っていることだった。

ミミ役の女優さんは、エンジェルが死んでしまう場面の歌ではきれいな一筋の涙を流し、その後、アンサンブルで加わる他の役者さんたちも涙を流していたのだった。彼らの役への入り込み方は相当なものであるだろうし、それを殆ど1週間、毎日のように演じているのだから本当に感心させられる。

演技、踊りもさることながら、出演者全員、歌も上手で、マルチなエンターテイメントのアート・フォームとしてのエネルギーは、ミュージシャンである僕にとってもすばらしい勉強になった。

次回は最後列の席を取って、絶対にベンを連れてゆこう。
砂かぶりの感激_f0097272_9284935.jpg
これがラッキー・チケット!
by gakuandben | 2006-09-04 09:39
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