ニューヨークでミュージシャンとして活躍する一面、自閉症の子供と向き合う現実との戦い
by gakuandben
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推薦文・プロフィール
タケカワユキヒデさんから推薦を頂きました!
 「自閉症の子供を持つ親が勇気づけられるだけでなく、自閉症のことをよく知らない人たちにとっても、とても意味のあるエッセイだと思います。
 また、生のニューヨーク事情も知ることもできる。なんとも、幾重にもお得な素晴らしいエッセイです。

プロフィール
高梨 ガク
64年東京生まれ。ベーシスト。18歳でプロ・デビュー後、90年に渡米。ソウル、ジャズ系の音楽を中心に幅広い音楽活動を続ける。ポリスターより自己のバンド
『d-vash』(ディバッシュ)”Music Is”が発売中。
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匂いの記憶
ベンは何かとすぐに匂いをかいでしまう。始めて食べる物や、新しいおもちゃや本に至るまで、調べたい気持ちのあるものはすべて嗅ぐのだった。

小さい頃には、褐色の美しい肌を持った黒人女性の腕の匂いを嗅いでしまった事もあった程。嗅ぐことによって何か納得させられるものがあるのだろうし、記憶にもつながっているのだろう。

実は僕もそんな匂いの記憶をたくさん持っていて、匂いによって気分や思い出がよみがえることが多い。今日はリハーサルに行くために朝10時頃近所を歩いていると、窓を開け放ったバーから独特の匂いが漂ってくる。

バーがオープンしている時間に良いと思う事はあまり無いのだが、僕は営業前の床に落ちた酒の糖分が分解されて時間が経過した様なバーの匂いが大好きだ。

それは、フロアが木製であればなお格別で、甘い香りとともにライブ・ハウスで演奏する前のわくわくした気持ちと、学生の頃楽しかった学園祭の思い出が入り交じる香りなのだった。

渡米した頃を思い起こせば、アメリカには日本と違ったたくさんの匂いがあることに気が付く。特にスーパーマーケットは取り扱う商品の違いからか、消毒液と生肉の混ざりあった強烈な匂いで、おでんと雑誌の匂いのコンビ二を恋しく思ったりしたこともあった。

NYCの地下鉄と、ニュージャージーへ行くパス・トレインの匂いにも明らかな違いがある。トンネルに使われた建材や、清掃液の種類が違うのが原因だろうか?

小学生の頃は、香水の匂いの入り交じる父兄参観日が嫌で仕方なかった。何故だかわからないのだが、学校のと香水の匂いの相性が悪かったのかも知れないし、単に父兄参観というものが嫌だったのかも知れない。

記憶と重なり、嫌なことも良いことも全て含めて、懐かしい気持ちや光景が浮かんで来る。

そんな匂いの追憶を楽しむ僕に対し、ベンの匂いに対する興味はアグレッシブで、鼻を近づけて嗅いでしまうことが多い。先日も、ドラッグ・ストアの菓子棚の前で、片っ端からキャンデーやチョコ・バーの袋を手に取って匂いを嗅ぐベンを発見して、注意したばかりだ。

確かに袋ごしに嗅ぐキャンディーの香りは、実際に食べてしまうよりも期待感があり、それは輸入版のレコードからするビニールの香りでわくわくしていたのと同じ感覚なのを覚えている。

こらからもベンにとって楽しい匂いの記憶が増えてくれるのを祈る。

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by gakuandben | 2007-06-22 23:30
伝えられたメッセージ
「無理でしょう。前もってよく考えれば不可能なのでやめておこう。」という考えはいつ頃から使い始めただろう? 時にもう一人の自分への問いかけの中で最高の逃げ口上となる理性なのだが、ベンの学校で見たものはそんな気持ちの襟を正してくれた。

ベンのクラスは6人。この学期を通してのプロジェクトとして10ヶ月に渡って行われていたのが、クラス全員による創作演劇。学年の近い2つのクラスの先生が企画した、自閉症という障害の一番苦手とするであろう分野に、白紙の状態から挑んでゆく、全てが手作りのチャレンジングな試みだった。

それはきっと先生方にとって気が遠くなるほどの地道な作業で、情熱というガソリンを持ち合わせていなければとてもなしえる事では無いだろう。

ベンのクラスが考えたストーリーは、タイムズ・スクエアにあるトイ・ザラスに買い物に来た観光客が、DVDを買おうとするのだが、日本人観光客(当然ベンの役)の出したお金がドルでなく円だったことに腹を立てた店員が、お金を破り捨ててしまう。といった事件から始まる。

途中、挿入歌を皆で歌う場面もあり、15分の短い劇ながら本当に充実した内容だ。その歌でさえも生徒たちが並べられたベルを鳴らして作曲、歌詞も起承転結をふまえた作詞の基本に沿った方法で書くように指導したとの事。

リサーチのために、クラス全員でタイムズ・スクエアのトイザラスに行き、
実際に店長にインタビューをして脚本をつくる参考にしたという。

劇の最後は店長が出て来て、お金を破り捨てた従業員を叱り、「違ったカルチャーのお客様でも、喜んで受け入れましょう」といった結末になる。

何ともポジティブなメッセージを持ったこの演劇は、いくつか聞き取りにくいセリフがあったにもかかわらず、DVD売り場とレジのセットだけの舞台から、彼らのメッセージが存分に伝わってくるのだった。

自分たちの演じたい事や歌いたい事を劇にするという発想が素晴らしい。そこには演ずる事へのシンプルな動機があり、実際にストーリーはベンの好きな、「トイ・ザラス」や「DVD」といった環境になっていたというわけだ。

練習をしてゆくうちに、偶然出たというアイディアもふんだんに盛り込まれ、アドリブ的な自然な要素が笑いを誘う。ベンはカラオケという名の日本人で、「こんにちは」などと日本語で言い、お辞儀をしたりする場面もあった。

僕は演技をする彼らを見ながら、一人一人に秘められた大きな可能性を感じながら、それを引き出そうとしてくれる教育をしてくれた先生方に心から感謝した。

最後に全員で踊ったテクノ調ダンスは、ストンプと、胸叩きという振り付けで、これまたベンの日常生活をダンスに表現したかの様だ。僕は涙を浮かべながら大笑いをしていた。
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by gakuandben | 2007-06-12 07:25 | 自閉症に関して
いつも居る人にありがとう
下の子が学校のキャンプも行き、水曜日から2日間家を空けていた。9月からの中学進学を控えたいわゆる修学旅行的な行事なのだ。

今まで2人揃ってサマーキャンプに行く事はあってもベンだけが家に残るということはなかった。

そんなわけで一人残されたベンは、今回弟の大切さを再認識させらたようで、しきりに「I miss my brother」を連発する。何かいつも一緒に居る者が居ない感覚というのはどうにもならないのは良くわかる。しかしながら、僕にとっては毎日弟の見ていたテレビや、彼の存在自体にベンが随分と興奮させられていたことにも気付かされる機会となる。

単純に狭いアパート内でひしめき合う家族の絶対数が減ったことによる自然な緊張感の緩和もあるだろう。「Be quiet !」などといったベンに対する弟による小言も、うっとおしいのもわかる。

食事中もいつもより落ち着いて、席を立たずに食べている。自分の分け前を争う相手もいないのが、何か精気を失わさせているようにも見えた。

とにかく、彼らが寝ている時以外に家の中に静寂があるというのが驚きだ。

弟が帰って来たら、少しテレビも控えてもらうように提言しようと思いながら、すぐに金曜となり帰宅の時がやってきた。朝、学校に行くベンは、「I have to pick up my brother」(弟を迎えに行かなきゃ)と言う。3時に帰る予定だったので、「よし、ベンが帰ったらその足で迎えに行こう」と約束して家を出た。

僕自身、何か重大なアシスタントを失ったような気分となっていたので、帰りが待ち遠しい。

3時前、スクールバスで帰ったベンとその足で弟を迎えに行った。

既にバスから降りていた弟は、こちらに手を降り歩み寄る。僕は、ここでベンが日頃弟に与えているストレスを帳消しにするかのような感動的な対応をするのかと期待していたのだったが、顔を見るや否や、いつものベンに戻ってしまった。

弟にハグをする訳でもなく、「おかえりなさい、ミスしていたよ」と言う訳でもなく、何事も無かったかのように「I'm thirsty. I have to drink soda」(僕は喉が渇いたよ。ソーダを飲まなきゃ)と言うのだった。

映画のクライマックスにDVDが壊れてしまったかのような気分になった僕は、弟の方に「ハグしないの?」と聞くと、「Yeah~, that's OK 」(う〜ん、別に)と顔をしかめて言う。

「そうだよな。そういうものだよな。」と妙に納得しながら冷蔵庫に冷えたソーダのある家に戻った。


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by gakuandben | 2007-06-04 14:46